特許 令和3年(行ケ)第10164号「銅銀合金を用いた導電性部材、コンタクトピン及び装置」(知的財産高等裁判所 令和4年11月16日)
【事件概要】
本件は、拒絶査定不服審判事件において、「本件審判の請求は、成り立たない。」とした審決が取り消された事例である。
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【争点】
主な争点は、本願補正発明の合金体が「銅と銀のみからなる二元銅銀合金体」である点が容易であるか否かである。
【結論】
甲8(引用発明1)には、特に、「被膜を有しないSn耐食性に優れた合金材料、この合金材料からなるコンタクトプローブおよび接続端子を提供することを目的とする」ものであるところ、銀の添加については「Sn耐食性」の向上については触れられていない一方で、ニッケルの添加は「Sn耐食性の向上・硬度上昇に効果がある」ことが明記されている。そして、実施例においても、硬度等とともに「Sn耐食性」が独立の項目として評価され、甲8に係る発明の実施例には全てニッケルが添加され、いずれも「Sn耐食性」において「○」と評価されている。以上の点に照らすと、引用発明1においては、ニッケルの添加が課題解決のための必須の構成とされているというべきであり、引用発明1の「合金材料」について、ニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることには、阻害要因があるというべきである。そして、甲8の記載に照らしても、引用発明1の「合金材料」について、ニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることの動機付けとなる記載は認められず、他にそのようにすることが当業者において容易想到であるというべき技術常識等も認められない。したがって、引用発明1に基づいて、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることについて、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
【コメント】
また、本判決では、以下の点も判示している。
新たな引用文献に基づいて独立特許要件違反が判断される場合、当該引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正については当該引用文献を示されて初めて検討が可能になる場合が少なくないとみられること等も考慮すると、特許法159条2項により読み替えて準用される同法50条ただし書に当たる場合(補正の却下の決定をするときは拒絶理由通知を要しない)であっても、出願人の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには、拒絶理由通知をしないことが手続違背の違法と認められる場合もあり得るというべきである。
本件審決は、甲16(引用発明5)を追加の主引用例として、本願補正発明が進歩性を欠く旨を判断したとみるのが相当であるが、甲16(引用文献5)については、審査段階、本件審判手続において予め指摘されることなく、本件審決で初めて指摘された文献であると認められる。
しかるに、本願発明と引用発明1の対比によると、本願補正発明と引用発明5との相違点である相違点3は、本願補正発明と引用発明1の相違点2等と全く同一のものであると認められるが、拒絶理由通知をもって甲16(引用文献5)を主引用例として示されていた場合には、原告においては、審査段階や審判段階において、引用発明5の認定並びに本願補正発明と引用発明5の一致点及び相違点について争ったり、反論をしたり、あるいは補正することを検討するなどしていた可能性もあるものとみられ、原告の方針には重大な影響が生じていたものというべきである。
したがって、相違点3と同一の相違点2については審査段階で原告に反論の機会が与えられていたこと等を考慮しても、なお、引用発明5を主引用例として本願補正発明の進歩性を判断することは、原告の手続保障の観点から許されないというべきである。